
PR業界を変革する生成AI活用の最前線【2025年上半期最新動向】
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グローバルなPR業界で、生成AI活用の波が急速に広がっています。ChatGPTの登場以降、大手PR企業から中小規模の事務所まで、AIを活用した新しいサービスの開発が活発化しています。
世界のPR企業の4分の1以上が既にプレスリリース作成などにAIを導入し始めており、2024年はさらなる普及が予想されます。
本記事では、「コンテンツ生成」「メディアリレーション支援」「データ分析」「危機管理」と4つの切り口で最新の活用事例を紹介しながら、今後のPR戦略における生成AIの可能性を探ります。
PR業界✕生成AIサービス①コンテンツ生成・自動化系
プレスリリースの作成は、PR業務の根幹を担う重要な業務です。従来、広報担当者が数日かけて執筆していたプレスリリースも、現在では生成AIの支援により数分でドラフトを作成できるようになっています。
PR Newswireのプレスリリースジェネレーター
PRの最大手PR Newswireが、生成AI技術を活用した画期的なプレスリリース作成・配信システムを展開しています。
その中核となる「AIプレスリリースジェネレーター」は、企業情報とトーンの指定だけで、数分でプレスリリースの草稿を生成。さらに、文章構成の改善提案や効果を予測するスコアリング機能も備えています。
特筆すべきは、ソーシャルメディア展開を効率化する「SocialBoostツール」です。プレスリリースの内容を各プラットフォームに最適化して自動変換し、エンゲージメント率を大幅に向上させることに成功しています。
セキュリティ面では、Google Geminiのエンタープライズ版を採用し、ユーザーのコンテンツを厳重に保護。今後はSEO最適化機能やチーム協業のためのワークスペース機能など、さらなる拡張も予定されています。
このPR Newswireの取り組みは、生成AIによるPR業務の革新を具体的に示す好例といえるでしょう。
PRtimesも文章構築にAIアシスタントを導入
日本のサービスでも生成AIの導入が進んでいます。PRtimesはOpenAIのモデルを使い、プレスリリースの目的に合わせたリリリース作成機能をβ版として導入しています。
現時点では本文をinputとして、タイトル、サブタイトル、リード文を出力したり、文章の校正をしたりすることができるようです。
Prowlyが提供する次世代AIアシスタント
オンラインPRサービス「Prowly」は、包括的なAIアシスタント機能を提供しています。プレスリリースの作成から編集、メディアコンタクトの最適化まで、PR業務全体をカバーする支援を実現しています。
特徴的なのは、単なる文章生成にとどまらない、戦略的なサポート機能です。「ブランドの個性を反映したトーンと表現の調整」「PRのベストプラクティスに基づく改善提案」「記者の関心に合わせたピッチ文の最適化」「100万人以上の記者データベースを活用したターゲティング」などを、強みとしているようです。
このあたりは以下の記事でも触れましたが、海外ツールはどちらかというと「メディアピッチ」によっているようです。
海外ではライターズ・ブロックという言葉でも説明されるるように、メディアに拒絶されてしまう課題をいかに解決するかに重点が置かれているようで、この課題を最適な「メディアピッチ」があれば解決できる、とする市場が大きく形成されているようです。
また全般的な傾向としては、社内に蓄積された文章データやスタイルガイドをAIに学習させることで、ブランドのトーンに沿った文章を大量生産しつつ、人間はクリエイティブな部分や最終調整に注力する、といった使い分けが定着しつつあるようです。
このあたりのトレンドは、企業独自のデータを再学習させる「ファインチューニング」から、情報検索させる「RAG」の活用にシフトしているようです。
すでにコンテキストークン数200万を誇るGemini 2.0 proなども現れており、企業独自の情報をどのように活用していくかは今後も目が離せません。
2025年上半期のAIによる文章生成最適解
なお文章の生成に関しては、ほぼ全てのAIモデルをチェックしてきましたが、日本語はClaude(claude-3-5-sonnet-20241022)が最も綺麗だと思います。
o1proモードも綺麗な日本語は出せますが、本多勝一氏が提唱するような読みやすい日本語は結局Claudeに帰結するのではないでしょうか。
PR業界✕生成AIサービス ②メディアリレーション支援系
生成AIは、メディアリレーション(報道機関との関係構築)にも革新をもたらしています。
Propel社のPR特化型AIアシスタント「Amiga」
米国Propel社は、業界初のPR特化型AIアシスタント「Amiga」を提供しています。
Amigaは過去に送信された500万通以上のピッチメールとプレスリリース、100万件超の記者データ、数億件の記事を学習しており、ユーザーが入力したニュース内容に合わせて記者一人ひとりにパーソナライズしたメール草稿を数秒で生成します。
単に流暢な文章を作るだけでなく、各記者の関心分野や過去執筆記事の傾向に合わせて内容や構成を最適化するため、記者ごとにカスタマイズされたピッチが自動で得られます
Propelによれば、これによりピッチ作成の時間を最大95%削減でき、しかも記者の反応率向上にも寄与するとしています。
さらに注目すべきは、生成AIによるメディアリスト自動生成です。従来、発表テーマに合った記者をリストアップするには手作業でメディアデータベースを検索しなければなりませんでした。
PropelのAmigaは、発表内容をベースに関連する過去記事をAIが解析し、内容にマッチした記者をリストアップする機能を提供しています。
AIがジャーナリストごとの執筆履歴をEmbedding技術でベクトル化し、ユーザーのニュース内容との類似度に基づいて「推奨度スコア」を算出、適切な候補を絞り込む仕組みです。
PR業務と生成AIの関係性
上記Propelの考えは「記事の内容(記者)」と「企業のPRネタ」をエンベディングでマッチングさせるというものです。
エンベディングはRAGのベースとなっている技術で、「キーワード」で検索していた従来の検索技術に変わり、いわゆる「意味合い(ベクトル)」で検索するというものです。
エンベディングモデルを使えば、あらゆる文章を数値化できるので、特定の記者の執筆文章をまとめておき、エンベディングすればその記者の特性や内容の類似度が出せたり、興味関心を抜き出したりすることが出来ます。
ここで重要となるのは文章が似ていれば良いということではなく、記者の興味とネタをいかにマッチングできるか(報道につながるか)という点です。
このあたりが「数億件の記事を学習」とあるPropelの技術力の見せ所となるのでしょう。
同様の機能は他のPRプラットフォームでも実装が進んでいます。たとえば前述のProwlyも、AIアシスタントが「記者の連絡先推奨」を行う機能を備えており、作成したプレスリリースの内容に適した媒体・記者を提案しています。
MeltwaterのPR向けAIツール「PR Assistant」も、新製品発表などの基本情報を入力すると最適なメディア向けメール(ピッチ)とプレスリリースを自動生成し、スピーディーなメディアアプローチを支援しています。
PR業界✕生成AIサービス③ データ分析・モニタリング系
PRの効果測定や環境分析の分野でも、生成AIが大量のデータを解析し人間に分かりやすい洞察を提供する用途で活用されています。
従来からソーシャルリスニング(SNSやネット上の言及モニタリング)やメディア分析にAI(機械学習)は使われてきましたが、生成AIの導入によって分析結果の要約や解釈を自然言語でレポートすることが可能になりました。
FGS Globalの「ReputationIQ」「MediaIQ」
例えば、世界的な戦略コミュニケーション企業FGS Globalは、「ReputationIQ」「MediaIQ」というAI分析スイートを提供しています。
ReputationIQはステークホルダー(利害関係者)を対象とした調査データを収集・可視化するツール、MediaIQはオンラインやSNS上のメディア言及をAIで分析するツールです。
ReputationIQ - 企業評判の定量測定ツール
概要:企業の評判を世界120以上の市場で直接測定する調査プラットフォーム
主な機能:
独自の6次元評価モデルで企業評判を構造化して分析
24時間365日のリアルタイム調査で、評判の変化を即座に把握
競合他社とのベンチマーク比較が可能
市場別・地域別の評判比較や時系列分析をダッシュボードで可視化
活用効果:
評判低下の早期警戒が可能に
データに基づく経営判断の促進
グローバルでの評判管理の一貫性向上
MediaIQ - AI搭載メディア分析ツール
概要:最新のAI技術を活用して、企業に関する報道内容を詳細に分析するプラットフォーム
主な機能:
ChatGPT-4などの大規模言語モデルを活用した高度な文脈理解
記事の段落ごとの詳細なセンチメント分析
トピックの自動検出と企業・人物の関連性分析
メディアでの露出度や論調を定量的に測定
活用効果:
報道傾向の客観的な把握が可能に
競合他社との報道状況の比較
危機管理やキャンペーン効果の測定に活用
エデルマンの「Trust Data Lake」
他の例として、エデルマン(Edelman)は長年にわたり世界各国で蓄積した信頼度調査(エデルマン・トラストバロメーター)のデータを「Trust Data Lake」という形で集約し、生成AIで分析する取り組みを行っています。
同社は独自の大規模言語モデル「ArchieAI」を開発し、ニュース記事やSNS投稿といった日々膨大に生み出されるコンテンツがブランドの信頼に与える影響をスコア化・可視化しています。
この「Trust Stream」プラットフォームでは、競合他社と比較した信頼スコアのベンチマーク、信頼を高める要因・低下させる要因の分析、将来的な信頼度の予測などが可能であり、企業のレピュテーション管理に活用されています。
エデルマンによれば、生成AIの導入により信頼度予測の精度が向上し、将来の信頼スコアを97%の精度で予測できるようになったとの報告もあります。
エージェントの登場とDeep Search
2025年はエージェント元年とも言われており、今最も熱い技術の一つとなっています。
Antoropic社はエージェントの定義を「LLMが自身のプロセスとツール利用を動的に制御するシステム」としているようです。
内部的な説明として、最もシンプルで分かりやすい定義は「Function Calling(外部ツール)」を使った生成AIサービスという説明でしょう。
つまり内部で完結できない機能をAPIなどの外部ツールを使って実現する機能ということです。
最も分かりやすい機能が「Web検索」です。特にOpenAIが提供しているDeep Researchは、調査能力が桁違いに高く、SNS調査なども様々なツールを使って分析してくれます。
オシント(OSINT)をベースとしたリサーチ技術はもうすでに人間以上といってもよいでしょう。
このように、生成AIを活用した高度なデータ分析・ソーシャルリスニングにより、単にデータを集計するだけでなく、そこから洞察を引き出して戦略立案に結びつけることが可能になっています。
大量のニュースやSNSの書き込みから兆候やパターンを検出し、危機や機会を事前に察知する、といった予測分析の領域でも生成AIが力を発揮しています。
PR業界✕生成AIサービス④ 危機管理・風評対策系
生成AIは情報発信だけでなく、情報リスクへの対処にも活用されています。とりわけ、近年問題となっている偽情報(フェイクニュース)や悪意ある風評の拡散に対し、AIで検知・対策するサービスがPR会社から提供されています。
BCW Decipher
大手PR会社BCW(Burson Cohn & Wolfe)は2023年に「BCW Decipher」というプラットフォームを発表しました。
これは情報防衛テクノロジー企業Limbik社との提携により実現したサービスで、ソーシャルメディアやニュース上で拡散しつつある潜在的に有害なナラティブ(ストーリー)を早期に発見し、その信憑性や拡散可能性をスコアリングするものです。
ある主張や噂について「どれほど信じられやすいか」「どの程度バイラル(拡散)になりそうか」をAIが予測し、企業にとって脅威となり得る情報を炙り出すということです。
生成AI由来のフェイク情報にも対応できることが特長とされています。
また、BCWは同年、クライアントの経営層向けにAI活用戦略を助言する「BCW Navigate」というコンサルティングサービスも立ち上げています。
これは生成AIを含む先端技術がもたらすリスクと機会について包括的に支援するもので、規制動向への対応、倫理ガイドライン策定、社内体制整備など、PR文脈でのAI利活用を上流から支える取り組みです。
危機管理の文脈では他にも、AIとソーシャルリスニングを組み合わせて炎上の予兆をリアルタイム検知したり、過去の事例データから最適な対応策をレコメンドしたりする試みがなされています。
特にSNS上の会話データを生成AIで分析し、60秒で状況要約を作成するといった実験的プロジェクトも登場しており、今後は危機発生時にAIが即座に状況レポートや声明文ドラフトを作成するといった支援も現実味を帯びています。
まとめ
以上、生成AIを活用したPR業界の最新動向でした。
国内企業の生成AI活用は、世界的に見ても遅れていると言われていますが、海外では様々な活用がされていることが分かります。
特にPR業界では今後、パーソナライズされたコミュニケーションが実現されることで、より効果的な情報発信が可能になると考えられます。