ホラッチョの罠をチャルディーニで解釈しPRに活用する方法
会社(社長)そのものを直接テレビへPRする際のターゲットメディアは限られます。例えば「ガイアの夜明け」であったり「がっちりマンデー」や「カンブリア宮殿」が筆頭でしょう。中でもラジオの筆頭は、j-waveの「make it 21」でした。
ご存知の通り、パーソナリティのショーンKさんの経歴詐称が明らかになり、番組は打ち切りとなってしまいました。
フジテレビの中枢機関まで信じこませてしまったそのアプローチ方法は、世の中やメディアを説得するためのPR戦略の参考事例になります。
広報担当者としてはこの事例を単に揶揄するのではなく、人々を説得させる手法の一つとして、貴重な参考事例にしなくてはならないと思います。
説得性とはなにか
こうした説得性研究の第一人者は、世界で200万部以上を売上げ大ベストセラーとなった『影響力の武器』の著者、 アメリカの社会心理学者ロバート・チャルディーニです。
この『影響力の武器』は500ページ弱もあり、読むのには時間がかかります。
そこで内容を簡潔にまとめてしまうと、人を動かすには6つの法則を駆使すれば良いらしいです。
- 社会的証明
- 権威
- 好意
- 希少性
- 返報性
- コミットメントと一貫性
これらを一つずつショーンKさんの事例と照らしあわせ、PR戦略に活かしていきたいと思います。
1.社会的証明
社会的証明とは、他の人がどう思い、どう行動しているかに応じて自らの判断をそれに委ねてしまうということです。
行列ができていればそれを良いモノに違いないと感じてしまい、何故か並んでしまうアレですね。この言動は、人間の共感力の源泉となるミラーニューロンの仕業とも言われていますが、これを悪用すると街頭インタビューのコメント操作などで世論誘導することもできてしまうわけです。
特に日本では「民放テレビに出る」ということそのものが、一つの大きな社会的証明になります。
報道によるとショーンKさんの最初の民放出演は、2009年の「魔女たちの22時」であったといいます。その翌年「とくダネ!」のコメンテーターとして抜擢、そこから報道ステーションへと進んでいくわけです。
PRにどう活用するか
「皆がそう思っている」と思わせられれば良いわけですから、マスメディアに取り上げてもらうのはもちろんのこと、消費者調査などを行い、皆が実際どう思っているのかを発表するのも社会的証明の一つの手段といえるでしょう。
また、テレビや新聞というマスメディアに出ること自体が、社会的証明の一旦でもあるわけですので、影響力をもたらすにはテレビなどマスメディアへの積極的なPRの働きかけが重要となります。
2.権威
「主治医が見つかる診療所」や「行列のできる法律相談所」が流行るのは、人生のトラブルをテーマにしているだけでなく、専門家の意見を中心に作られているからという点も大きいと思われます。
専門家は肩書を持っています。人は見た目で判断がつかないことは、肩書やレッテルで判断するようにデザインされているようです(その後は第三者評価を調べ、後は勇気と言い訳を駆使する)。
ショーンKさんが務めていたj-waveの「make it 21」は、16年続いている経済ラジオ番組であり、スポンサーは大手企業(大和証券・マクロミル)でした。
経歴はニューヨーク生まれ、テンプル大学を経てハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得。パリ大学に留学した後は、コンサルタント業務で年収30億円を稼ぎ、セルリアンタワーでホテル暮らしをしていたとのこと。
その人が民放マスメディアに出ており、継続的にコメントをしていました。
騙されないほうがおかしいですね。日本人も名刺を見たら、まず肩書を見てしまう傾向があるようです。それほど肩書や経歴は、強力な影響力の武器であるのです。
企業PRにどう活かすか
実績だったり世の中皆が夢中であるという事実をアピールするべきです。
しかし自社で言うだけですと説得性にかけますので、肩書を持った味方を付けるべきです。特に医者・弁護士といった士(師)業は力強い味方となってくれるでしょう。
特にテレビメディアは権威に弱いため、医者や弁護士のコメントはとても良い武器となります。増税延期もノーベル経済学者に言わせることでお墨付き感倍増となるわけです。
また、本を出している(出せている)ということも、ある種の権威性をもたらしますので書籍を出版するのも有効です。
ショーンKさんも4冊ほど書籍を出していました。 特にテレビは書籍出版者を選ぶ傾向にありますので、本は(自費出版だろうとも)重要なポイントであると言えるでしょう。
3.好意
ショーンさんは、ハーフでイケメンな外見、かつ良い声を持っている(「インテル、入ってる?」でも有名)。
チャルディーニによると、見た目が良い、親切であるなどの理由で好感を持ってしまうと、その後騙されてしまうパターンも増えてしまうそうです。
おそらく客観的データ以外には、見た目(視覚)、声(聴覚)、臭い(嗅覚)、温度(触覚)、といったデータしか、人は判断基準を持っていないからかもしれません。
政治家が握手をするのも、温度コミュニケーションを図っているためかもしれません。
企業PRにどう活かすか
好感度の高い愛嬌のある人を広報担当に置くというのも一つの方法です。
ライブドア広報の乙部さんから始まり、少し前はキラキラ女子を広報担当に、という流れがありましたが、実際問題未だに記者には男性が多いわけで、こうした時代遅れな考えも、その点だけ見れば理にかなっているかもしれません。
4.希少性
ショーンさんは、ハーフで見た目も良く、高学歴でMBAを取得して(いると思われ)、良い声で喋ることができ、番組に都合の悪いことは喋りません。
こうした貴重性は本人の強みでもあり、他に真似できないからこそ重宝されるのでしょう。
企業PRにどう活かすか
その会社でしか取材できない要素や、その日にしか撮れない画を用意してしまうのも良いかもしれません。
ギネスに挑戦することはその日しか取材できませんし、限定100個の商品がすぐに売り切れる様子はメディアも取材したくなるかもしれません。
5.返報性
やられたらやりかえす。もらったら送り返す。これは日本でもお歳暮や年賀状でみられるように、人間に予めデザインされている要素らしいです。
通常の返報性の法則としてはモノ・サービスで行われるものですが、相手は記者ですのでこちらから提供する内容は「情報(ネタ)」となります。
取材してもらえたら自社の情報だけでなく、業界情報や競合情報などをまとめて提供してあげれば、記事の内容や大きさで返報してもらえる可能性もあります。
いつ記事が出るのかをしつこく聞くのは北風のやることであり、太陽はそんなことせずに追加情報や新たな追加ネタを送り、記事を書きやすくするためのサポートをしてあげましょう。
6.コミットメントと一貫性
コミットメントと一貫性とは、一度進んでしまった道は思考を停止して、さらに突き進んでしまうという法則です。サンクコストとも呼ばれるこの法則は、記者も持っているはずです。
綿密に取材しここまでやったのに最終会議でボツになる、こんな思いをさせないためにも、取材後にも情報提供をし、良い記事を書いてもらうパートナー的サポートをするべきです。「いつ記事になるのか」「この表現を直せ」などといった、広告主意識はくれぐれもなさらぬように。
空からモーリーが降ってくる!?
最後に余談ですが、ショーンKさんが降板したフジテレビの「ユアタイム」の後釜は、なんとこちらもj-waveの伝説の番組「Across The View」のDJであったモーリーロバートソン氏ということです。
「空からモーリーが降ってくる」なんて作品がありましたが、スカイツリーから民放電波でまさか本当に彼が降ってくる時代がくるとは、当時の「Across The View」リスナーも本当に驚きなのではないでしょうか。
こういう人がテレビにレギュラーで出られる時代になったのは凄いですね。
アングラがマスメディアに出る時代。中小企業もどんどんテレビに売り込みをかけるべき時代なのかもしれません。