
調査PRがAI時代に再評価される5つの理由-LLM検索で選ばれるための新戦略-
「ChatGPTに聞いたら、御社の名前が出てきました」
商品やサービスを知ったきっかけとして、このようにAIで聞いたというケースが少しずつ増えているようです。
Google検索の結果ではなく、ChatGPTやPerplexityといった生成AIの回答の中に、自社ブランドが「信頼できる情報源」として引用される——これは偶然ではありません。戦略的なPR活動の結果として、AIに"選ばれる"ブランドが生まれ始めているのです。
本記事では、SEOツール大手Ahrefsが2025年9月に公開した調査レポートをもとに、AI検索時代におけるPR戦略の変化と、特に「調査PR」が再評価されている理由を解説します。
目次[非表示]
- ・LLM検索とは何か
- ・75,000ブランドの調査が示した事実
- ・Checkr社の事例:調査PRがAI引用を生んだ
- ・なぜ調査PRがAI時代に有効なのか
- ・理由1:AI露出と最も相関が高い「権威サイトでの言及」を獲得できる
- ・理由2:AIは「事実」と「独自データ(一次情報)」を好む
- ・理由3:特定のトピックと自社ブランドをAIに「関連付け」できる
- ・理由4:「情報の鮮度」がAI検索(RAG)の引き金になる
- ・理由5:プラットフォームを問わず「全方位」で効く
- ・従来のファネルとAI時代のファネル
- ・実務への示唆:AI時代に勝つための調査PR戦略
- ・①AIの「エサ」となる一次情報の開発
- ・②「掲載数」から「ドメインパワー」へのKPI転換
- ・③「トピック×ブランド」の記憶定着(Share of Memory)
- ・④評価指標のアップデート:AI引用の可視化
- ・まとめ
LLM検索とは何か

まず基本的な概念を整理しておきましょう。
LLM検索とは、ChatGPT、Perplexity、Google AI Overviewなど、大規模言語モデル(Large Language Model)が情報を取得し、ユーザーに回答を提供する仕組みを指します。
従来のGoogle検索が「関連性の高いWebページのリストを提示する」のに対し、LLM検索は「質問に対する回答を自然言語で直接生成する」という点で根本的に異なります。
項目 | 従来の検索 | LLM検索 |
|---|---|---|
提供するもの | Webページのリスト | 自然言語による回答 |
ユーザー行動 | リンクをクリックして情報を得る | 回答を読んで完結することも多い |
情報源 | 常時更新されるWebインデックス | 学習データ+リアルタイム検索 |
マーケターの目標 | 検索結果で上位表示される | AIの回答の中で引用・言及される |
この変化は、PR・広報の役割にも大きな影響を与えています。
従来、メディア掲載の効果は「記事へのトラフィック」「被リンクによるSEO効果」「認知拡大」といった指標で測られてきました。しかしLLM検索の時代には、新たな価値が加わります。
「AIの学習データに組み込まれ、関連する質問への回答で継続的に言及される」 という効果です。
75,000ブランドの調査が示した事実

Ahrefsは75,000ブランドを対象に、Google AI Overview(Googleの生成AI検索機能)での言及状況を調査しました。
その結果、AI Overviewでのブランド言及と最も強い相関を示したのは「Web上でのブランド言及数」でした(相関係数0.664)。
続いて相関が高かったのは以下の要素です:
- ブランド名を含むアンカーテキスト(相関係数 0.527)
- 参照ドメイン数(相関係数 0.465)
- オーガニックトラフィック(相関係数 0.397)
興味深いのは、単純なページ数や技術的なSEO指標よりも、「他者からの言及」が圧倒的に重要だという点です。
さらに、Ahrefsのプロダクトアドバイザー Patrick Stox氏の追加調査によれば、高権威サイトや高トラフィックページでの言及がAI可視性に与える影響は特に大きいことがわかりました。
つまり、量より質。100件の無名サイトでの言及よりも、Newsweekでの1件の掲載の方が、AI検索における可視性に貢献する可能性が高いのです。
Checkr社の事例:調査PRがAI引用を生んだ
Checkrとは

Checkr, Inc.は米国のバックグラウンドチェック(身元調査)企業です。Uber、Lyft、Instacartなどのギグエコノミー企業を主要顧客に持ち、企業価値50億ドル以上と評価されるユニコーン企業として知られています。
本業は採用時の身元調査サービスですが、同社は自社の保有データを活用した調査レポートの発信をPR戦略の柱としています。
実施した施策
2025年7月、Checkr社は「2025年版 アメリカで最も雇用環境の良い都市ランキング」という調査レポートを発表しました。
調査の概要は以下の通りです:
- 対象:米国の大都市圏100エリア
- 評価指標:失業率、労働力成長率、実質一人当たり所得、10年間の所得成長率、高所得世帯比率、求人比率など7指標
- データソース:米国国勢調査局、労働統計局、経済分析局
- 手法:雇用機会スコア(50%)と収入ポテンシャルスコア(50%)で総合評価
結果として、ノースカロライナ州ローリーが1位、テネシー州ナッシュビルが2位、テキサス州オースティンが3位にランクされました。
メディア掲載の実態
注目すべきは、この調査が大量のメディア露出を獲得したわけではないという点です。
掲載されたのは主に以下のメディアでした:
- Newsweek:「Map Shows Cities With the Best Job Markets」として詳細記事化
- CNBC:雇用市場関連の記事で参照
- CBS News、地方ニュースサイト:二次利用
掲載数だけを見れば「少数」です。しかし、NewsweekとCNBCという権威性の高いメディアへの掲載が決定的な意味を持ちました。
AIへの影響
Ahrefs記事の著者Louise Linehan氏は、この事例を以下のように検証しています:
「発表から1ヶ月以内に、"best job markets"や"best cities for jobs"といったクエリをChatGPTに投げると、Checkrが権威ある情報源として一貫して言及されるようになった。パーソナライゼーションの影響を排除するため、異なるChatGPTプロファイルで検証したが、Checkrは毎回言及された」
つまり、たった数件の権威メディア掲載が、ChatGPTの「記憶」にCheckrを刻み込んだのです。
この事例は、コンテンツ配信プラットフォームStacker社のCEO Noah Greenberg氏がLinkedInで「PRとコンテンツチームがChatGPT結果に影響を与えた証拠」として紹介し、マーケティング業界で大きな話題となりました。
なぜ調査PRがAI時代に有効なのか

Checkr社の事例から、調査PRがAI検索時代に特に有効である理由を整理します。
理由1:AI露出と最も相関が高い「権威サイトでの言及」を獲得できる
Ahrefsが75,000ブランドを調査した結果、AIの回答にブランドが登場するかどうかは、「Web上でのブランド言及数(特に権威あるサイト)」と最も強い相関(0.664)がありました。
調査リリースは、米国ではNewsweekやCNBC、TechCrunch、日本ではヤフーニュースといった権威あるメディアに取り上げられる最良の手段です。単なる広告ではなく「ニュース」として扱われるため、AIが学習・参照する「信頼できるソース」に自社名が刻まれます。
理由2:AIは「事実」と「独自データ(一次情報)」を好む
Checkr社が「雇用市場」に関する調査を発表し、メディアに取り上げられた結果、ChatGPTなどが「雇用市場」について回答する際に、Checkr社を情報源として引用するようになりました。
LLMは「もっともらしい答え」を作るために、裏付けとなる事実(ファクト)を探しています。ネット上の情報の焼き直しではなく、自社だけが持つ「一次情報(独自調査データ)」を提供することで、AIにとっての「引用したくなる原典」になることができます。
理由3:特定のトピックと自社ブランドをAIに「関連付け」できる
ブランド言及が増えることは、AIにとってのトレーニングデータが増えることを意味します。AIはブランドとトピック(例:「リモートワーク」と「自社」)の結びつきを学習します。
「〇〇に関する調査」を出し続けることで、AIの脳内で「このトピックといえばこの会社」という強い関連付け(アソシエーション)が形成されるといいます。結果として、そのジャンルの質問がされた時に、自社が回答の候補に挙がりやすくなるわけです。
理由4:「情報の鮮度」がAI検索(RAG)の引き金になる
AIアシスタントは新しい情報を好み、検索結果よりも25.7%鮮度の高い情報を引用する傾向があるそうです。特にRAG(外部情報の検索)は、モデルが知らない最新情報をユーザーが求めた時に発動します。
調査データは常に「最新のトレンド」を映し出すものです。古いWikipediaの情報ではなく「2025年の最新動向」をAIが探そうとした時、直近で発表された調査PRの記事は、AIにピックアップされる可能性が極めて高くなります。
理由5:プラットフォームを問わず「全方位」で効く
Google、ChatGPT、Perplexityでは引用するソースの傾向が異なりますが、大手ニュースメディアや専門メディアはChatGPT(ニュース好き)やPerplexity(多様なソース好き)の両方で好まれる傾向にあります。
特定の検索エンジンハック(SEO)だけではGoogle以外のAIに対応できませんが、調査PRを通じて「ニュースメディア」や「業界メディア」に露出することは、どのAIプラットフォームからも参照されやすい「普遍的な資産」になります。
従来のファネルとAI時代のファネル
この変化を、マーケティングファネルの観点から整理してみましょう。
従来のPRファネル
プレスリリース配信
↓
メディア掲載
↓
記事へのトラフィック
↓
ブランド認知・被リンク獲得AI時代のPRファネル
独自調査の実施・発表
↓
権威メディアへの掲載
↓
AIの学習データに組み込まれる
↓
関連質問で継続的にブランド言及
↓
「新しいTop of Funnel」として機能Stacker社のNoah Greenberg氏は、この変化を「The New Top of Funnel(新しいファネルの入口)」と表現しています。
従来のTop of Funnel コンテンツ(「〜とは」「〜の方法」といった一般的な解説記事)は、AI Overviewの登場により、トラフィックを大きく失いつつあります。HubSpotのような業界リーダーでさえ、オーガニックトラフィックが80%減少したと報告されています。
一方で、独自のデータや洞察に基づくコンテンツは、AIが「引用したい」情報源として価値を持ち続けます。これが、調査PRが再評価されている背景です。
実務への示唆:AI時代に勝つための調査PR戦略

最後に、これらの環境変化を踏まえ、これからの調査PRに求められる実務上のアクションをまとめます。
①AIの「エサ」となる一次情報の開発
AIは常に学習・参照するための新しい「事実」を探しています。社内に眠っているデータ資産の棚卸しはもちろん、新たに企画するアンケート調査においても、「AIが答えを持っていない(Web上にまだ正解がない)問いは何か?」という視点が重要です。
他社情報のまとめ(コタツ記事)ではなく、自社だけが提供できる「一次情報(Raw Data)」こそが、AI時代における最強のコンテンツ資産となります。Checkr社の事例のように、必ずしも直接的な製品データでなくとも、業界に関連するトレンドデータであれば十分に機能します。
②「掲載数」から「ドメインパワー」へのKPI転換
従来のPRでは「掲載記事数」や「広告換算額」が重視されがちでしたが、AI露出(LLMO/GEO)の観点からは「どのドメインに掲載されたか」が決定的に重要です。
Ahrefsのデータが示す通り、AIは権威あるサイト(大手ニュースメディア、政府機関、業界のトップメディア)の情報を優先的に学習・引用します。無名なブログ100件に転載されるよりも、AIが信頼する「Source of Truth(真実のソース)」となる数媒体への掲載獲得にリソースを集中すべき時期に来ています。
③「トピック×ブランド」の記憶定着(Share of Memory)
単発の調査で終わらせず、特定のトピックについて継続的にデータを出し続けることで、AIに対して「このトピックといえば、この会社」という関連付け(アソシエーション)を学習させる必要があります。
「リモートワークの課題なら〇〇社」「Z世代の消費動向なら△△社」といった具合に、自社が支配したいトピック(Topic Ownership)を明確に定め、その文脈での「共同言及(Co-mention)」を積み重ねるよう調査テーマを設計してください。
④評価指標のアップデート:AI引用の可視化
掲載クリッピング報告に加え、AIプラットフォーム上での可視性をモニタリングする体制を整えましょう。
指名検索の確認: ChatGPTやPerplexityで自社ブランドや調査テーマについて尋ねた際、自社のデータが引用されているか。
競合比較: 競合他社と比較して、AI上での「Share of Voice(発話シェア)」はどうなっているか。
現在は手動での確認や、Ahrefs Brand Radarのような新興ツールの活用が主になりますが、SEO順位と同様に「AIからの引用状況」を定点観測することが、今後のマーケティング活動の羅針盤となります。
まとめ
Ahrefs記事の結論は明快です:
「SEOを支えてきた要素——権威性、関連性、鮮度、アクセシビリティ——は、AI検索においても同様に重要である。実績あるSEOとブランド構築の実践を強化すれば、AIでの可視性も得られる」
言い換えれば、良質なPR活動の価値は、AI時代においても変わらないということです。むしろ、「量より質」「独自性の重視」「権威ある第三者からの評価」といったPRの本質的な価値が、AI検索という新しい文脈で再評価されているといえるでしょう。
調査PRは、その中でも特に有効なアプローチです。独自データに基づく発信は、メディアに取り上げられやすく、AIに引用されやすく、競合との差別化にもつながります。
AI検索の進化は始まったばかりです。今後もこの領域の動向を注視し、PRの新しい可能性を探っていきたいと思います。
参考資料
- Ahrefs「What We Actually Know About Optimizing for LLM Search」(2025年9月)
- Checkr「2025's Best US Cities for Jobs and Earning Potential」
- Stacker「The New Top of Funnel: How AI Is Rewriting TOFU」
本記事は2025年12月時点の情報に基づいています。AI検索の仕様は頻繁に更新されるため、最新情報は各プラットフォームの公式発表をご確認ください。


