2024年7-9月期 雑誌印刷部数を分析する
目次[非表示]
雑誌印刷部数の2024年7-9月期 最新数値が公開されたので、今回も数値動向を見ていきたいと思います。
発行部数の過去の記事は以下から
2024年4-6月期
2024年1-3月期
2023年10-12月期
2023年7-9月期
分析作業はAIに任せる時代に
これまで四半期ごとに手作業で数値分析をしてきましたが、生成AIを使えば従来エクセルのピボットテーブルなどを使ってコツコツやってきた作業も、半自動的に処理することができるようになりました。
今回からはAIのデータ分析機能の紹介とともに、最新の雑誌部数データを調べていきたいと思います。
データ分析に使えるLLM
LLMを使ったデータ分析には、数値のテキストそのものを入力データとする方法と、プログラミングツールとしてPython(pandas)を使った2種類に大きく分けられます。
テキストデータそのものをコピーして入力する手法も取れますが、データ量が増えてくるとテキストでは受付入力数(トークン数)オーバーとなってしまうため、今回は後者のPythonを使った分析ができる3つのLLMを取り上げてみます。
ChatGPT
ChatGPTでは元々Code Interpreterとしてブラウザ上でPythonを実行可能でしたが、現時点ではCode Interpreterの名前は消え、機能だけが内包されています。
グラフ出力だけでなく表形式での表示や修正指示も可能です。
今回分析似使ったデータは前処理で既に縦持ちに綺麗に整理したものを使用していますが、どのモデルも近年は最近では前処理も丁寧に実施してくれます。
読み込むと部数がテキストデータになっているとのことで、次の候補文章に「Convert'印刷部数' to numeric format(数値データに修正)」が出ているのでクリックしてみます。
するとPythonコードで「印刷部数」列を数値化してくれました。
このように生成AIでは欠損値処理やデータタイプ変更などの前処理も、ノーコードで実施することができます。前処理を行った後はグラフ化も実施可能です。
例えばVoCEの印刷部数の時系列データを出してみると以下のようなグラフを表示してくれます。
ChatGPTのCode処理は、表の列や行、セルなどを指定してプロンプトを入力できるのも特長です。
Gemini
GoogleのGeminiでも同様のことが可能です。
Geminiの場合は、スプレッドシートと連携してそのままスプシ出力できることや、グラフが比較的インタラクティブな点などが挙げられます。
Google Colaboratory
WebブラウザでPython環境が実行可能なGoogleコラボラトリーでもGeminiが搭載されており、生成AIと連携して処理が可能です。
こちらはコード出力が基本となり実行にはクリックなどの処理が必要となりますが、こちらも自然言語で実行コードを指示することが可能です。
ChatGPTとGemini、Googleコラボラトリーと主要なデータ分析機能をご紹介しましたが、どれも裏でPythonコードを実行していることもあり、自然言語で(Pythonコードを)しっかりと指示しないと、思ったような処理はしてないため注意が必要です。
このあたりのコード生成力はClaude3.5 Sonnetがずば抜けている印象ですが、ClaudeはPython実行はいまのところできず、入力数が20万トークンという大きなハードルがあるため小規模なデータ分析にしか今のところ活用できません。
ClaudeもCSV分析などが可能(PythonではなくReactでグラフ化している)
ここまで代表的なデータ分析ツールを見てきましたが、結局どういった処理をしているかはコードを確認しなくてはならず、コードが読み取れないとブラックボックスになってしまうというところは大きな課題のようです。
また少し複雑な処理になるとモデルによってはコードを間違えます。例えば2023年7-9月期と2024年7-9月期のカテゴリー別合計部数を算出して増減値を並び替えて表示する、といったプロセスは、モデルによっては結構難しいことがわかりました(Claude3.5Sonnetなら問題なし)。
このような処理はまだエクセルのほうが楽かもしれません。
部数が増えたカテゴリー、減ったカテゴリー
次は実際にどのカテゴリーが増えたのか減ったのかをチェックしてみます。
部数が増えたカテゴリー
2024年7-9期に部数が増えたカテゴリーは、後述する「ハルメク」の影響で女性シニア誌が25,700部増となっています。
スポーツ誌はゴルフ誌が伸びており、ビューティー・コスメ誌は「美的 」「美ST」が伸びています(美容誌は詳しく後述します)。
カテゴリー |
合計 / 2023年7月 |
合計 / 2024年7月 |
増減 |
|
---|---|---|---|---|
1位 |
女性シニア誌 |
575,966 |
601,666 |
25,700 |
2位 |
スポーツ誌 |
128,815 |
133,845 |
5,030 |
3位 |
ビューティ・コスメ誌 |
350,200 |
352,849 |
2,649 |
部数が減ったカテゴリー
カテゴリー |
合計 / 2023年7月 |
合計 / 2024年7月 |
増減 |
|
---|---|---|---|---|
1位 |
少年向けコミック誌 |
2,460,634 |
2,218,255 |
-242,379 |
2位 |
週刊誌 |
2,137,555 |
1,930,592 |
-206,963 |
3位 |
生活実用情報誌 |
1,632,080 |
1,430,670 |
-201,410 |
部数が減ったカテゴリーでは、前期に引き続き少年向けコミックがワースト1位となっています。
少年向けコミックは部数減少が続いています。
また週刊誌の減少も特徴的です。週刊誌も後述します。
前年比で部数が増えた雑誌
次に2023年4-6月期と比較して、部数が増えた上位20誌を具体的にみてみましょう
「ハルメク」
高止まりし減少傾向に入ったかに見えていたハルメクですが、2024年は回復し部数維持する傾向にあります。
集英社「BAILA」
集英社の女性向けファッション誌「BAILA」も減少傾向が続いていましたが、ここにきて底を打った感が出ており、前年同期比17.9%増の70,000部と回復の兆しが見て取れます。
小学館「小学一年生」
春の入学シーズンで付録などが話題となる「小学一年生」は、毎年1-3月期に部数を伸ばしていますが、2024年4月号(2/22売)はピカチュウ目覚まし時計が話題となり、部数を大きく伸ばしました。
集英社「LEE」
集英社のライフスタイルマガジン「LEE」も底を打ったようなグラフとなっています。LEEは毎年12月売り1月・2月合併号が、豪華付録などで部数を伸ばしているため、このような10-12月期だけ毎年伸びているグラフになっている模様です。
2025年1・2月合併号の付録はマッキントッシュ フィロソフィーのトートバッグです。
マガジンハウス「anan」
ananも部数が底を打ち回復傾向が見て取れます。
美ST/美的
戦国時代真っ只中の美容誌は後ほど詳しく解説します。
前年比で部数が減った雑誌
続いて部数が減った雑誌です。
ハースト婦人画報社「ELLE JAPON」
ELLE JAPONは昨年同期16万超だった部数が、今期は6万弱と大幅に下がっています。
これは、ここ数年で急上昇した、2023年9月売り11月号「平野紫耀さん特別版」の影響や2024年7月号増刊 Stray Kids スンミン特別版、2024年8月号 Number_i特別版などで急上昇した結果とみられます。
扶桑社「ESSE」
生活実用情報誌の「ESSE」の部数減少も止まりません。
ESSEも10-12月期が他の月に比べて毎年部数を伸ばしています。これは付録つき新年特大号の影響だと思われます。
生活情報誌は「Mart」なども今年から不定期刊に変更したりと、カテゴリー全体で不調となっているようです。
生活情報はSNSやYouTubeなどで素早く手に入るようになったことや、専業主婦が減っていることなども影響しているかもしれません。
週刊誌動向
部数減少が共通しているのが週刊誌カテゴリーです。
週刊新潮、週刊現代、週刊文春、週刊ポストの4つをグラフで見てみます。
週刊新潮(青線)の落ち方が急激であることが分かります。
美容誌動向
続いて近年熾烈な争いを繰り広げている美容誌の動向を見てみます。
ここ数回減少傾向にあった小学館「美的」ですが、再び10万部超えで主要4誌の中でTOPに返り咲きました。
これは美的9月号(2024/7/22売)にてSK-Ⅱ付録特集を行ったことが大きく影響していると考えられ、Amazonの口コミも70件以上に及んでいます。
dマガジンの影響
美容誌は付録の影響が強く、紙媒体数の争いが目立ちますが、dマガジンにも一定のユニークユーザーがおり、これを合わせるとVoCEが強いことが分かります。
出版社別分析
最後に出版社別に見てみます。
部数を増やした出版社
出版社 |
2023年7-9月期 |
2024年7-9月期 |
増減 |
|
---|---|---|---|---|
1位 |
ハルメク |
45,533 |
48,133 |
26,000 |
2位 |
コンデナスト・ジャパン |
50,000 |
65,000 |
15,000 |
3位 |
ゴルフダイジェスト社 |
128,815 |
133,845 |
5,030 |
全42社のうち、部数平均合計が増えた出版社は5社に留まり、「ハルメク」を出版するハルメク社が26,000部と最も部数を伸ばしました。
部数を減らした出版社
出版社 |
2023年4-6月期 |
2024年4-6月期 |
増減 |
|
---|---|---|---|---|
1位 |
講談社 |
2,185,089 |
1,868,573 |
-316,516 |
2位 |
小学館 |
2,700,910 |
2,398,447 |
-302,463 |
3位 |
集英社 |
3,249,332 |
2,960,247 |
-289,085 |
部数を減らした出版社は、媒体数も圧倒的に多い講談社、小学館、集英社と続きました。
以上、2024年7-9月期の雑誌印刷部数分析でした。