2023年10-12月期 雑誌印刷部数を分析してみる
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雑誌印刷部数の2023年10-12月期 最新数値が公開されたので、今回も数値動向を見ていきたいと思います。
発行部数の過去の記事は以下から
2023年7-9月期
2023年4-6月期
2023年1-3月期
2022年10-12月期
部数が増えたカテゴリー、減ったカテゴリー
前年同月比として、伸びたカテゴリーと減少したカテゴリーを抽出してみます。
2023年10-12月期は残念ながら増えたカテゴリーは見当たりませんでした。その中でも減少数が少ないカテゴリーをピックアップしてみます。
部数が増えたカテゴリー
カテゴリー |
2022年10-12月期合計 |
2023年10-12月期合計 |
差分 |
|
1位 |
業界・技術専門誌 |
16,533部 |
15,700部 |
▲833部 |
2位 |
ナチュラルライフ誌 |
93,500部 |
91, 000部 |
▲2,500部 |
3位 |
ゲーム・アニメ情報誌 |
209,518部 |
203,787部 |
▲5,731部 |
部数減少が最も少なかったのは、業界・技術専門誌でした。こちらのカテゴリーは家の光協会の「地上」1誌のみとなります。
またナチュラルライフ誌も「ku:nel」のみとなり、ゲーム・アニメ情報誌は「Vジャンプ」や「アニメージュ」などがカテゴライズされています。
部数が減ったカテゴリー
カテゴリー |
2022年10-12月期合計 |
2023年10-12月期合計 |
差分 |
|
1位 |
少年向けコミック誌 |
2,743,685部 |
2,431,529部 |
▲312,156部 |
2位 |
週刊誌 |
2,324,740部 |
2,054,654部 |
▲270,086部 |
3位 |
生活実用情報誌 |
2,119,083部 |
1,861,594部 |
▲257,489部 |
最も部数が減ったカテゴリーは「週刊少年ジャンプ」「週刊少年マガジン」などを含む少年向けコミック誌で、次いで「週刊文春」「FRYDAY」などを含む週刊誌、「ESSE」「サンキュ!」などを含む生活実用情報誌と続きました。
前年比で部数が増えた雑誌
続いて個別の雑誌で見ていきます。
趣味の園芸 やさいの時間
最も部数を伸ばした雑誌はNHK出版 「趣味の園芸 やさいの時間」でした。以下のような謎のスパークを記録しており、原因はつかめませんでした。
2倍以上の数値となっており、もしかすると集計方法の変更やミスがあった可能性も否定できません。
NHK出版なので数字が正しければ 3月決算の事業報告書でも触れられるかもしれません。
なお凸凹しているのは、毎年4月(2018年からは1-3月と4-6月)の園芸スタート時に部数が上がることが要因と考えられます。
JUNON
主婦と生活社「JUNON」も前期から連続で上昇しています。
要因としては、2023/12/21発売の 「2024年 02月号《特別版》」にて、EBiDANスペシャル 全メンバースペシャルカード付きが大きく影響したと考えられます。
く
TV LIFE
近年、テレビ誌の部数が底を打ち回復傾向にあります。
毎年年末に紅白&ジャニーズ関連で発行部数を伸ばしてきたテレビ誌ですが、2023年10-12月は「ジャニーズゼロ」にも関わらず、2023/12/27発売号のSnow Man特集が功を奏したようで、部数も好調だったようです(補足:Snow Manは SMILE-UP. 所属)。
前年度比で部数が減った雑誌
次に前年同期比で部数が減った雑誌を見ていきます。
週刊少年ジャンプ
まず最も部数が減少した雑誌は「週刊少年ジャンプ」となり、前年同月比で12万部(11%)の減少となっています。
週刊少年ジャンプの部数減少は紙雑誌の最も象徴的な動きとなっており、今後の動きは後述したいと思います。
ハルメク
部数を唯一伸ばしていた「ハルメク」ですが、2022年10-12月をピークに、特に上場後は部数減少が続いています。直近の決算でも業績を下方修正しており、決算資料にも読者数減少が言及されています。
ハルメク誌は、読者数減少、新規顧客獲得効率が大型のTV露出があった前年より低下し、減益
テレビパブリシティと共に部数を伸ばしてきたハルメク
ハルメクの検索数はテレビ番組での取り上げタイミングと非常に相関しています。
- 2019年7月「人生が変わる1分間の深イイ話」 ※検索数がピークに
- 2022年1月「プロフェッショナル 仕事の流儀」 ※スパーク
- 2022年5月「日曜日の初耳学」 ※スパーク
- 2023年10月「旬感LIVE とれたてっ!」
- 2024年1月「ガイアの夜明け」 ※小スパーク
直近の2024年1月には「ガイアの夜明け」で特集されていますが、検索数はピーク時の1/2ほどにとどまっており、ここからどれだけ読者が増えたかは興味深いところです。
決算書に記載された今後の取り組み施策としても、TVの活用を記載しており、いかにゴールデンタイムの番組に取り上げられるかが、今後の部数成長の鍵となるといっても良いかもしれません。
今後の取組み施策 :ハルメク読者数や物販新規顧客数の成長を維持するため、新聞に加えてTVやネットを組合わせたクロスメディアマーケティング手法を開発し拡大する
オンラインメディアにも注目
ハルメクはオンラインメディア「ハルメク365」にも注力しているようです。
similarwebで調べてみると、月次アクセス数は2百万ということで、ozmallの1/4ほどのアクセスをもっていることが分かります。こうして見るとozmallがとても強いことも見て取れます。
年齢層も45-54歳が最も多いようです。
コスメ・ビューティー誌の熾烈な戦い
昨年あたりから熾烈な部数争いを演じてきた美容雑誌ですが、当期も激しい動きとなっています。
最も部数が大きかったのは、講談社「Voce」で95,667部、次いで小学館「美的」89,000部、集英社「MAQUIA」72,800部、光文社「美ST」57,150部となっています。
これら部数推移を見ていると、コスメ・ビューティー誌だけは雑誌不況とは無縁のような気がします。
美容誌の部数は減っているのか
では美容誌全体の部数は増えているのでしょうか。減っているのでしょうか。
先程の主な4誌の合計を時系列で見ていきたいと思います。
合わせて人口推計データから、主なターゲットであると思われる30代と40代の女性(実際に媒体名を検索しているユーザーの半数以上が30~40代の女性でした)の総人口と合わせてプロットしてみます。
以下は美STのデータが取れる2011年からの比較となります。
2011年の4誌合計の印刷部数は1,351,438部でした。その年の女性の国内総人口は6,561万人。
3・40代女性に絞ると1,734万人です。
そして最新数値である2022年の数値では、美容誌合計部数は1,406,267部と、12年間の始点と終点を見ると約5.4万部増えていることが見て取れます。
3・40代女性の何人に1人が美容誌を購入しているのか
さらにターゲット人口あたりの購入割合を見るため、この4大美容誌の印刷部数合計をターゲット人口である30~40代の女性の人口で割った数値を出してみます。
この数値は女性誌発行サイドとしては、下がれば下がるほどよい指数となると考えます。
これをプロットすると、2011年には12.8人に1人の値だった数値が、2022年には10.9人と改善していることが分かります。
つまり全体的な紙の雑誌は減少が続く一方で、美容誌の印刷部数は増えており、かつターゲットの購入ニーズは増加していることが分かります。
30代女性が急減していくのは2040年前後
全体的に雑誌の部数が減っていくなかで、なぜ美容誌だけは部数が減少していないのでしょうか。これは恐らく以下の3点に集約されるのではないでしょうか。
- 付録モデル(数百円で高級コスメが試せる)
- コスメメーカーとしても初回マーケとして協力できる(しかし購入者データは取れない)
- 30代・40代女性という比較的お金を使える世代の人口推移
かの大前研一氏も言っているように、出生数の芋虫グラフは何よりも強力なマーケティングデータとして活用できそうです。
未来の30歳人口は30年前の出生年に30を足せば予測できるわけです。近年で出生数が急減し始めたのは2010年あたりですので、30代40代女性をターゲットとしたメディア運営は2040年あたりからきつくなることが想定されます。
2025年1-3月期に「週刊少年ジャンプ」100万部割れか?
コスメ以外では休刊と部数減少が続く雑誌界ですが、次の大きなニュースは「週刊少年ジャンプ」の100万部割れかと予想されます。
このまま減少傾向が続くと、2025年1-3月期の数値発表(2025年の5月あたりに発表)でついに100万部割れが予想されます。このタイミングでヤフートップなどにも記事掲載されることが想定され、XなどのSNSでも節目として大きな議論となることが想定されます。
dマガジンが飛躍する?
こうした紙メディアが苦戦する一方で、最も代表的なデジタル雑誌「dマガジン」は比較的好調な模様です。
具体数値は公表されていないようですが、生成AIが広告コンテンツをユーザーに合わせて自動で作成できるようになれば、ユーザーデータを持っているデジタルコンテンツが更に強みを持つことは明確です。
(出典)東京新聞 https://www.tokyo-np.co.jp/article/39990
もしdマガジンの広報担当であれば、この週刊少年ジャンプ100万部割れのニュースタイミングに合わせて、「一方、デジタル雑誌は好調」というメッセージをデータと共に示す、といった戦略も良いかもしれません。
オープンデータから予想できるヤフトピというのは結構珍しいので、これは2025年に再度検証してみたいと思います。
以上、2023年10-12月期の雑誌印刷部数の分析記事でした。
最後にGPTsを使ったトレンド分析ツールも無料で公開中です。ぜひご活用ください。
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