先日、海外PRニュースメディア「GLOBAL PR NEWS」で、Muck Rackが発表した最新調査レポートを取り上げました。
記者の82%がAIを活用している一方で、88%の記者は担当分野から外れたピッチ(売り込みメール)を即座に削除しています。この一見矛盾するデータは、PR業界の何を示しているのでしょうか。
本記事では、Muck Rackの2つの調査と日本の調査を並べ、PR×AIの違いを整理します。そして「日本ではどうすべきか」という問いに対して、大手メディアだけでなくYouTubeやポッドキャストまで含めた具体的な処方箋を提示します。
2つの調査が映し出すPR×AIの現在地
2026年に入り、PR×AIの実態を示す大規模調査が相次いで公開されました。
1つ目は、Muck Rackが2026年3月19日に発表した「State of Journalism 2026」。1,044人の記者(有効回答897人)を対象とした、記者側から見たPRとAIの実態調査です。
2つ目は、同じくMuck Rackが2026年1月に発表した「State of AI in PR 2026」。564人のPR専門家を対象に、広報・PR側のAI活用実態を調査したものです。
これを日本広報学会の第2回調査(2025年10〜11月、有効回答104件)と並べました。
| 指標 | Muck Rackの調査 | 日本広報学会の第2回 |
|---|---|---|
| 広報・PR側の生成AI利用・導入 | 76% | 77.0% |
| 記者のAI利用率 | 82% | 対象外 |
| AIの利用方針・社内規定がある | 51% | 68.8% |
| 有料AIツール利用 | 75% | — |
Muck Rackの調査(2025年12月)では、PR専門家の4人に3人がAIを使い、51%が勤務先にAIの利用方針があると答えました。日本の広報部門の生成AI導入率は、2024年の第1回調査の37.2%から、第2回で77.0%へ2倍以上に伸びました。対象の国も設問も回答者の集め方も違うので、そのまま比べることはできません。
記者のAI活用82% — その内訳と日本の「空白」

Muck Rackの調査によると、米国の記者の82%が何らかのAIツールを業務で使用しています(前年の77%から上昇)。
内訳を見ると:
| ツール | 利用率 | 前年比 |
|---|---|---|
| ChatGPT | 47% | — |
| Gemini | 22% | 13%→22% |
| Claude | 12% | 6%→12%(倍増) |
| 文字起こしツール | 40% | — |
Claudeの利用率が1年で倍増しているのは注目に値します。一方で、「未チェックのAIコンテンツ」を業界の懸念として挙げた記者は26%(前年比+8ポイント)に増加しました。AIを使いつつも、AIが生み出す未検証の情報への警戒感が同時に高まっているのです。
PR側(広報担当者)のAI活用も見てみましょう。

| 活用分野 | 利用率 |
|---|---|
| 編集・改善 | 86% |
| リサーチ・インサイト | 76% |
| 執筆・コンテンツ制作 | 74% |
| 戦略・計画立案 | 68% |
一方、AIエージェントを使っているPR担当者はまだ12%。ただし「人間の承認が必要な場合は使いたい」と答えた人は90%に上ります。
では日本はどうか。日本広報学会の第2回調査の利用業務の上位は、「プレスリリース類の作成」46.3%、「コピーやリリースタイトルの案だし」43.8%、「企画の壁打ちや案だし」43.8%でした。「広報戦略づくり」は16.3%です。設問と選択肢が違うので、Muck Rackの「戦略・計画立案」68%とそのまま比べることはできません。
そして最大の空白——日本では記者側のAI利用実態を調査したデータが存在しません。米国が1,044人の記者を調査しているのに対し、日本では広報側の調査はあっても、受け手である記者がAIをどう使っているかは誰も把握していない状況です。
記者の88%が担当外のピッチを削除。日本にも共通する構造的問題
Muck Rackの調査で最もインパクトのあるデータは、「ジャーナリストの88%が、自分の担当分野(ビート)と合わないピッチを即座に削除する」という事実です。
さらに深掘りすると:
- ピッチが自分の読者ニーズと「常にマッチしている」と感じる記者はわずか3%
- 44%が「マッチすることは稀」、7%が「まったくない」と回答
- 宣伝調のピッチを拒否する記者は71%
- マスメール風のピッチを拒否するのは50%
一方で、86%の記者がPRピッチをきっかけに記事を書いた経験があるとも回答しています。つまりPR自体は記事の源泉として機能しているが、そのほとんどが的外れなまま送られている。
では、効くピッチとは何か。調査は明確な条件を示しています。
- 78%が「午前中に受け取りたい」
- 69%が200語(英語の語数)未満の簡潔なピッチを好む
- 62%が「個別の1:1メール」を好む(マス配信ではなく)
- 78%が「自分の読者コミュニティに直接関係するピッチ」に反応する
PR TIMESでは年間35万件以上のプレスリリースが配信されています。回答者の多くが米国の記者であるこの調査で88%が担当外のピッチを即座に削除すると答えているなら、一斉配信が主流の日本ではその比率はさらに高い可能性があります。しかし、日本ではピッチが捨てられる割合すら測定されていません。
なぜ日本の大手メディアには「米国型AIツール」が通用しないのか?

前回の記事「HeyJaredなど海外PRテックに見る、記者データAI活用の可能性と法的課題」で、海外ではAIが記者を自動推薦するPRツールが登場していることを紹介しました。
HeyJaredのような米国型のアプローチは、記者個人の過去記事・担当分野・論調をAIでプロファイリングし、ピッチを個別最適化するモデルです。米国ではこれが機能します。なぜなら、記者は個人として動き、コールドピッチ(面識のない相手への直接連絡)が日常的に行われる文化だからです。
しかし、日本のメディア構造は根本的に異なります。
日本の大手メディアでは、記者は個人としてよりも組織の一員として動きます。記事化の最終判断は多くの場合デスク(編集責任者)が行い、記者個人の興味だけでは記事になりません。担当替えも頻繁で、せっかくプロファイリングした記者が異動で別の部署に移ることも珍しくありません。
また、「誰が送ってきたか」よりも「今このネタに社会的な文脈(コンテキスト)があるか」が重視される傾向があります。記者個人をDB化してAIでマッチングするだけでは、日本の大手メディアを動かすのは難しいのです。
つまり、日本の大手メディアに対しては、記者の個人攻略よりも「テーマ設計」——今の社会で何が問われているか、どんなデータがあれば記事になるかという文脈の設計——が鍵になります。調査PRが日本で有効なのは、まさにこの「文脈を作る力」があるからです。
しかし、メディアの主役は大手だけではなくなった
ここまで大手メディアの記者を前提に議論してきましたが、2026年のメディア環境はもっと広がっています。
ポッドキャストの爆発的成長

世界のポッドキャストリスナーは2026年に6.19億人に到達する見込みです。市場規模は2024年の307億ドルから、2030年には1,311億ドルへ——年率27%の成長が予測されています。
日本でもポッドキャストの利用率は着実に上昇しています。
| 年 | 利用率 |
|---|---|
| 2020年 | 14.2% |
| 2024年 | 17.2% |
特に若年層の利用が顕著で、10代の34%、20代の27%がポッドキャストを聴いています。全年代の利用率はすでにTikTokと同等水準に達しました。
さらに注目すべきは購買への影響力です。ポッドキャストリスナーの5割以上が、聴いた情報をもとに商品やサービスを検索・購入した経験があるとされています。
なぜポッドキャストがこれほど伸びているのか。起業家のけんすう氏は、対談動画の中で現在のメディア環境について興味深い指摘をしています。
(発言の要約)プラットフォームやコンテンツの側がユーザーを攻略できすぎた結果、TikTokのように感情を刺激するコンテンツに偏っている。スマホで見るとスワイプが簡単すぎて感情のコンテンツに負けるので、理性で摂取できるコンテンツには、スマホを触らないポッドキャストが今のところいちばん筋がいい
ポッドキャストは「ながら聴き」メディアです。画面を見ないからこそ、アルゴリズムと指先の反応——スワイプひとつで飛ばされる世界——から逃れられる。YouTubeですら関連動画のサムネイルに視線を奪われますが、ポッドキャストにはそれがありません。
これはMuck Rackの調査とも符合します。記者のSNS重要度は21%まで急落(2024年比-12ポイント)し、TikTokへの不信は61%に達しています。大手メディアの記者もリスナーも、アルゴリズムに支配されたSNSから離れ始めている。その受け皿としてポッドキャストが急成長しているのです。
経済YouTubeの台頭

YouTubeもまた、従来型メディアを脅かす存在になっています。
当社の分析「経済YouTube2025年総決算」では、経済系YouTubeチャンネルの勢力図を詳しく取り上げました。
- PIVOT: 登録者373万人
- NewsPicks: 204万人(月間+10万人でピーク更新中)
- TBS CROSS DIG with Bloomberg: 46万人(成長率14%/月で急成長)
- 楽待: 1日あたり178万回再生——登録者数ではPIVOTの3分の1だが、日次視聴回数ではPIVOTを上回る
楽待の1日178万回再生という数字は、多くの全国紙のWeb記事PVを凌駕しています。
ニュースレターの拡大
Muck Rackの同じ調査では、記者の37%が、従来のメディア組織の外で、自分の名前やブランドでニュースや論評を発信しているという結果も出ています。SubstackやBeehiivなどのプラットフォームを使い、個人でニュースレターを運営するジャーナリストが増加中です。
ポッドキャスト、YouTube、ニュースレター——これらの共通点は、個人が主体で動いているということです。大手メディアの組織的な編集方針に縛られず、自分の関心と読者・リスナーの反応で動く。つまり、米国型の「個人へのアプローチ」が効く領域なのです。
膨大なターゲットを人力で洗える時代は終わった
ここで現実的な問題に直面します。
大手メディアの記者だけでなく、SNSやYouTubeチャンネル、ポッドキャスト番組、ニュースレター運営者までアプローチ先に含めるとなると、ターゲットの数は一気に膨れ上がります。
経済系YouTubeだけでも主要チャンネルは数十、各チャンネルが週に複数本の動画を公開しています。ポッドキャストに至っては、日本語の番組数だけでも数万。誰が何のテーマを話しているのか、最近の論調はどう変わったのか——これを人力で追うのは物理的に不可能です。
ここがAIエージェントの出番です。
- YouTubeの動画タイトル・説明文・コメント欄をクロールし、チャンネルごとのテーマ傾向を分析
- ポッドキャストの書き起こしデータを解析し、直近で取り上げられているトピックを把握
- ニュースレターの内容を定期的にチェックし、関心テーマの変化を追跡
こうした作業を24時間自動で回し続けることで、「このYouTuberは今月からAI規制に関心を持ち始めた」「このポッドキャスターは先週、調査PRの事例を好意的に紹介していた」といったインサイトが自動的に蓄積されていきます。
米国でマイクロインフルエンサー×PRが主流化しつつあるのも、この文脈です。マーケターの47%がマイクロインフルエンサーで最良の成果を得ており、マイクロ/ナノインフルエンサーのエンゲージメント率は5〜7%とセレブの1〜2%を大きく上回ります。
日本でも同じ構造変化が起きています。ポッドキャストの10代利用率34%、YouTubeの経済チャンネルが全国紙を凌駕する視聴数——しかし、この広大なターゲット群を体系的にカバーしている広報チームはほとんど存在しません。
AIエージェントを使ったターゲット調査の自動化は、この膨大な「新しいメディア」をカバーするための唯一の現実的な手段です。実際に、AIでテーマ分析を行い特定のYouTuberにアプローチした結果、テレビ露出以上の反響を得たという事例も出始めています。
日本のPR×AIの処方箋
Muck Rackの調査が示す「記者の88%が担当外のピッチを削除」と「82%のAI活用率」は、一見すると米国の話に聞こえます。しかし、日本のPR業界も同じ構造変化の入口に立っています。
大手メディアには「文脈の設計」を
日本の大手メディアは、テーマと社会的文脈で動きます。記者個人をAIでプロファイリングするよりも、「今この社会で何が問われているか」を分析し、独自のデータでストーリーを作る調査PRが引き続き有効です。
SNS・YouTube・ポッドキャストには「AIによるターゲット調査」を
一方、爆発的に成長するYouTube・ポッドキャスト・ニュースレターの世界では、個人が主体で動いています。この広大なターゲット群を人力で網羅するのはもう不可能です。AIエージェントによるターゲット調査の自動化——誰が何を発信し、どんなテーマに関心を持っているかを24時間モニタリングする——が、この領域をカバーする唯一の現実的な手段です。
「幅」をカバーできることがAIの本当の価値
記者DBを構築・更新し、ピッチ文面を最適化し、大手メディアからマイクロインフルエンサーまでのメディア環境全体を監視し続ける——これを人力で回すのはもう不可能です。24時間動き続けるAIエージェントだけが、この「幅」と「深さ」を同時にカバーできます。
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